
Dialogue contents
初等部で生まれる“対話”に耳を傾けよう
episode02
「 誰もが参加したくなる体育祭へ。ボーダーラインを越えた子どもたち 」
Prologue
子どもたちが向き合ったのは、白熱する体育祭の裏側に潜むある事実——
「全員参加のリレーが、一部の児童にとって重圧になっている」という問題だった。
どうすれば、困り感のある仲間を減らせる?

初等部の体育祭は熱い。休み時間も練習を積み、本番では勝っても負けても涙を流す。開校以来、全員が「クラス対抗リレー」と学年ごとに異なる「第2競技」に出場し、クラスの絆を深めてきた。
しかし、その熱量に苦しむ児童もいた。走力に自信のない子にとって、リレーへの出場はつらい。自分の番で順位を落としてしまうかもしれない恐怖から、毎年、当日に休んでしまう子が出ていた。
そんな現状に胸を痛めた体育委員長S君が立ち上がる。「誰もが参加したくなる体育祭」を目指し、彼は開校以来続くこの仕組みの変革に挑んだ。
S君は体育委員に働きかけ、スローガンをつくった。
「君とともに」
誰もが参加したくなる体育祭を目指すことに委員会のメンバーは同意したが、その実現は容易な道のりではなかった。
“そもそもリレーの参加を選択制にすれば、傷つく子が減るはず。”
“でもリレーに出ない子は1競技しか出られなくて、満足感が下がらない?”
“じゃあ、2学年合同にする? そうすれば、リレーに出ない子も第2競技を2つ選択できるはず。”
しかし、この学年をまたぐ提案はすんなりとは受け入れられなかった。人間関係への不安や、これまでのクラス対抗だったことで生まれていた学級としての熱気が損なわれるという危惧から、反対意見が相次いだ。
参加しやすい環境を作りたい思いと、伝統的な体育祭の良さを守りたい思いがせめぎあう。平行線をたどる議論は、次第に「そもそも誰のための体育祭なのか」という本質的な問いへと深まっていく。
“クラス対抗にこだわるのは、できる人のエゴなんじゃないかな。”
“そもそも、つらい子のために、みんなが我慢しなければいけないことなの?”
“我慢とかじゃなくて、「そういう時に助け合える仲間でいたい」っていう話じゃない?”
「熱気」と「寄り添い」、どちらも諦めたくない
すぐには結論が出ず、体育委員たちは何度も集まって話し合いを重ねた。
そして、一つの画期的な結論に達する。
「クラス対抗というシステムは維持しつつ、リレーは選択競技にする。選択競技のみを2学年合同にして取り組む」
これなら、走るのが苦手な子は別の競技を選べるため重圧から解放される。同時に、2学年が合流して人数を確保したことで「全員が2競技に出場する」という満足感も担保される。そして何より、クラス全員で挑む共通競技を残すことで、伝統である「クラス対抗の熱量」も失われない。
「クラス対抗のドキドキ感」と「困り感のある者への寄り添い」。一見対立しそうな2つを見事に両立させたアイデアは、初等部皆の深い納得を生んだ。

スローガンには副題がつき、
最終形となった。
「君とともに
〜ボーダーラインを越えて行け〜」

そして迎えた本番、重圧を理由に休む児童はいなかった。最後の自由参加のフォークダンスでは、学年も敵味方も、未就学児も保護者も入り交じって踊る姿があった。子どもたち自身の提案が、あらゆるボーダーを越える祭りをつくったのだ。
誰も取り残さない社会を体現
今回の取り組みは、うれしい産物も生み出した。合同練習のために体育の時間をそろえ、隣り合う学年と関わるようになったことで、互いのひととなりを知り合うきっかけにもなった。最初は「苦手な子を守るために改善しよう」というシンプルな出発点だった。しかし意見をぶつけ合う中で、子どもたちは自ら「熱気」と「誰もが楽しめること」のバランスを模索していった。
誰かのために何かを諦めるのではなく、全員が納得できる仕組みを創り出す。伝統に疑問を持ち、自分たちの言葉で議論し、学年の壁を越えていった彼らの姿は、これからの社会に求められる真の協働の形を示してくれた。